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姿勢タイプ別 体幹アプローチの基礎

多くの指導現場で“反り腰・スウェイバック・フラットバック”という
3つの姿勢タイプを正しく見抜けているようで、実は半分しか理解されていません。

本当に見るべきは
どの筋が働きにくくなり、どの筋が代償しているか
という機能面です。
姿勢の形ではなく、働くべき筋が働けているか

ここが改善の鍵になります。

そして、姿勢が崩れる理由の多くは、
「弱化すべきところが弱く、過緊張すべきでないところが代わりに働き続ける」
という力の偏りにあります。

つまり、見た目の姿勢分類だけでは、改善に必要な答えの半分しか取れていない。
今日のワークではその残り半分を一気にクリアにしていきます。

姿勢タイプの基礎理解

姿勢評価で重要なのは「どこが過緊張で、どこが弱化しているか」を構造と機能の両側面で見抜くことです。
今回扱う3タイプには、それぞれ以下の特徴があります。

反り腰(Lumbar Hyperlordosis)

特徴:
・腰椎前弯が過度に強い
・骨盤が前傾位
・肋骨が前方に開きやすい(リブフレア)
・大腿四頭筋・脊柱起立筋の過活動
・腹筋群・多裂筋の弱化

スウェイバック(Swayback Posture)

特徴:
・骨盤が前方へスライド
・胸郭が後方へ引け、全体が後重心
・膝が伸展し、股関節は相対的に伸展方向
・腹筋群は張るが働いていない
・腸腰筋・殿筋の弱化

フラットバック(Flat Back)

特徴:
・腰椎前弯の消失
・胸椎の可動性が低い
・骨盤やや後傾
・ハムストリングスの過緊張
・胸郭の動きが小さく、呼吸が浅い

弱化しやすい筋とアプローチの理由

姿勢タイプを分析するときに重要なのは、
「見た目の形」ではなく
どの筋が働きにくい位置関係にあるかを理解することです。

人の姿勢は、過活動(張り)と弱化(働きにくさ)のセットで崩れます。
この“働きにくさ”の仕組みを筋の長さ・関節位置・重心の逃げ方向から捉えると、改善の方針が明確になります。

ここでは、反り腰/スウェイバック/フラットバックの3タイプにおける
弱化筋(使えていない筋)とその理由
を、現場でそのまま使える形で解説します。

反り腰

弱化:多裂筋(+腹斜筋群)

反り腰では、骨盤前傾・腰椎前弯の増大が特徴です。
このとき体は「背中側で立つ」状態になり、脊柱起立筋が常に優位に働きます。

背中側の筋が強く働けば働くほど、
本来“制御役”である深部の多裂筋は働く隙間がなくなり弱化します。

また、肋骨が開く(リブフレア)と、
肋骨と骨盤の上下距離が広がり、腹斜筋が適切に収縮できる“位置関係”を失います。
深部筋は「短すぎても/長すぎても」働かないため、
反り腰の人は多裂筋・腹斜筋が“長すぎる位置”に固定されていると理解すると分かりやすいです。

▼アプローチの方向性(反り腰)

・まずは肋骨を下げて腹斜筋を働きやすいポジションへ
・低負荷での多裂筋の“微細収縮”を回復
・殿筋群を使い、股関節伸展を腰で行わないようにする

→ 反り腰は「働かせたい深部筋が、構造的に働きにくい位置にいる姿勢」。
土台(ポジション)を整えれば改善が早い。

多裂筋のエクササイズ

ダイアゴナルラテラルキープ

四つん這いで対角の腕と脚を斜めに伸ばしてキープすることで、多裂筋が働きやすくなり、反り腰に伴う腰椎の不安定さを改善します。骨盤を正対させてねじれを抑え、股関節から伸ばす意識がポイントです。

Electromyographic & Stabilometric Analysis of Static Bird-Dog-2023, May

スウェイバック

弱化:腸腰筋(+殿筋群)

スウェイバックでは、骨盤が前方へスライドし、胸郭は後方に逃げるため、
股関節が相対的に“伸展方向にロック”されやすい姿勢になります。

股関節が伸展位に固定されると、腸腰筋は
“伸ばされながら働く”という最も苦手なポジションに位置します。
この状態が続くと、機能的に弱化しやすく、
股関節屈曲を必要とする動作(初期歩行、片脚動作)が不安定になります。

さらに、殿筋群も骨盤が前方に逃げた位置では力が入りにくく、
結果として体は股関節を使わず、腰と太もも前で立つ代償へ移行します。

▼アプローチの方向性(スウェイバック)

・まず骨盤と胸郭の位置関係を整え、腸腰筋が“縮める方向”で働ける環境をつくる
・殿筋後部を働かせるエクサを使い、股関節伸展代償(腰)を抑える
・立位では前重心を戻し、股関節が使える範囲へ誘導する

→ スウェイバックは「強い張りではなく、使えていない部位が作る姿勢」。
腸腰筋・殿筋の“セット”の回復が鍵。

腸腰筋のエクササイズ

トライアングルシッティング

スウェイバックで働きにくい腸腰筋を目覚めさせ、股関節屈曲と骨盤前傾の協調を取り戻すエクササイズ。腰椎の反りではなく「股関節から前に曲げる」動きを練習することで、立位の前重心や腰部の代償を改善する。

Hodges et al., 2003 – Journal of Applied Physiology

フラットバック

弱化:胸郭の可動性(胸椎伸展)

フラットバックは、腰椎前弯が減り、胸郭の動き全体が小さくなる姿勢です。
胸椎が伸展しづらい姿勢は、
腹圧の調整・呼吸の拡張・体幹バランスの土台が作りにくい状態。

胸郭が動かない=肺が広がるスペースが作れず、
呼吸は浅くなり、腹筋群も「押しつぶされた状態」になり働きにくくなります。

胸郭の可動性の低さは、腹斜筋・多裂筋の協調を低下させ、
股関節・骨盤の動きも硬くなりやすい。
結果として、重心の上下移動が乏しい“硬い歩行・硬い姿勢”につながります。

▼アプローチの方向性(フラットバック)

・胸郭の外側・背側の広がりを呼吸で取り戻す
・胸椎伸展を出すことで腹圧の“伸びしろ”をつくる
・骨盤を後傾でロックしない軽いエクサから始める

→ フラットバックは「そもそも胸郭が動いていない」ことが核。
呼吸と胸椎伸展が改善の“入口”になる。

胸郭のエクササイズ

ポステリアスチェストエクスパンション

背中側の胸郭を広げて、硬くなりやすい胸郭後方の可動性を高めるエクササイズ。卍座りで骨盤を安定させ、吸気で背中を膨らませるように呼吸することで、平坦化した胸郭の動きを取り戻し、フラットバックの改善につながる。

Effects of Thoracic Mobi…-2020年

姿勢タイプ共通:体幹アプローチの基礎原則

どのタイプでも共通する改善の軸があります。

◼︎深部の体幹(多裂筋・腹横筋・腹斜筋)を使えるポジションへ戻すこと
◼︎ 呼吸と胸郭の動きでアライメントを整えること
◼︎ 骨盤と肋骨の“距離”を適正にすること
◼︎ 過緊張部位を“脱力させてから”使うこと

「姿勢タイプ別アプローチ」と言うと難しく聞こえますが、
本質は「弱化部位が働ける土台作り」をすることです。

 

エビデンス

反り腰 × 多裂筋弱化
Hides et al., 1994(Spine)
腰痛患者では多裂筋が迅速に萎縮し、局所安定性が低下することを報告。反り腰姿勢は多裂筋の不活性を招きやすい。

スウェイバック × 腸腰筋の機能低下
Sahrmann, 2002(Movement System Impairment)
スウェイバック姿勢では腸腰筋が長期伸張され、機能的弱化が起こりやすいと示される。

フラットバック × 胸椎可動性
Kendall et al., 2005
胸椎可動性の低下は腰椎代償を招き、姿勢保持の効率を大きく下げるとされている。

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