exercise-design

股関節がうまく使えない本当の理由 – 呼吸・胸郭・体幹から再設計 –

「股関節が使えていないですね」
指導現場で、誰もが一度は口にしたことのある言葉です。

しかし実際には、
“股関節が使えていない”という現象を、股関節の問題として捉えてしまっている
ここに、評価と改善が停滞する最大の原因があります。

本記事では、
専門家が次の段階に進むために必要な視点として、

なぜ股関節が使えなくなるのか
どこから評価を組み立て直すべきか
なぜ呼吸・胸郭・体幹が最優先なのか
を、構造と機能の両面から整理していきます。

股関節が「使えていない」とはどういう状態か

まず前提として確認したいのは、
「使えていない=動かない」ではないという点です。

多くのケースで股関節は、
動いている
可動域もある程度ある
筋力テストでも弱く見えない

それでもなお、
スクワットで前ももが張る
歩行で外張りが出る
片脚立位が不安定

といった問題が起きます。

これは、
股関節が“動いてはいるが、機能していない”状態です。

言い換えると、

股関節が「選ばれて動いている」のではなく
他部位の代償として「使わされている」

この違いを見抜けるかどうかが、
初級と中級の大きな分かれ目です。

股関節の問題を股関節だけで見てはいけない理由

股関節は、単独で存在する関節ではありません。

構造的にも機能的にも、
上:体幹・胸郭・呼吸
下:下腿・足部・接地
この入力と出力の中間にある関節です。

つまり股関節は、

自分で動きを選んでいるように見えて
実際は上下からの条件によって「動かされている」

という立場にあります。ここを無視して、
股関節のストレッチ
殿筋の筋トレ
可動域改善
を繰り返しても、

条件が変わらなければ、使い方は戻ります。

これが
「一時的には良くなるが、すぐ戻る」
という現象の正体です。

呼吸と胸郭が股関節機能に与える影響

股関節機能を再設計する上で、
最初に見るべきは呼吸と胸郭です。

理由はシンプルで、
呼吸は24時間止まらない
胸郭は体幹の“形”を決める

体幹の形が、股関節のスタートポジションを決める
からです。

胸郭が、
前方に張り出す
背中が膨らまない
肋骨が常に開いている

この状態では、
腹圧が適切に作れない
体幹の安定は外側筋頼りになる
股関節は「支える役」を押し付けられる

結果として、

股関節は“可動域”を失い、硬く・重く・使いづらくなります。

体幹が安定しないことで起きる股関節の代償

体幹が安定しないとき、
身体は必ずどこかで代償します。

多くの場合、その代償役を担うのが股関節です。

具体的には、
腰椎伸展で立つ
大腿前面で身体を支える
股関節をロックして安定を作る

これらはすべて、
体幹の不安定さを股関節で補っている状態です。

この状態でいくら、
殿筋を鍛えても
股関節の可動域を広げても
「使える股関節」にはなりません。

なぜなら、
股関節が“自由に使われてはいけない環境”に置かれているからです。

動作前に整えるべき体幹の条件

重要なのは、
「動作中に頑張らせる体幹」ではありません。

必要なのは、
動作前に、すでに安定している体幹です。

この体幹の条件とは、
呼吸で腹圧が自然に入る
胸郭が前後・背側に拡張できる
骨盤と肋骨の距離が保たれている

つまり、
力を入れなくても崩れにくい状態。

この状態が作れて初めて、
股関節は「動いてもいい関節」になります。

胸郭を広げる大丈的なエクササイズです。

ファーストポジション

目的
肋骨を締めて呼吸の状態を良くし、適切な腹圧が入る土台をつくります。

緊張が強い背面を抑制します。
潰れて圧がかかった胸郭、浅くなった呼吸を深くする土台をつくります。

チェストオープン

目的
上胸部を拡張して空気が入りやすくします。胸部の拘縮をリリースします。

押しつぶされた胸郭の上部を拡張します。
特に猫背姿勢では胸がつぶされて巻き肩が強化されるので、最も優先するエクササイズです。

股関節機能を引き出すための評価の視点

評価の順番を整理します。

股関節が使えていない
では股関節を評価する
→ ここで止まると初級

一段上がるには、

股関節が使えていない
なぜ使えない環境になっているか
呼吸・胸郭・体幹・足部のどこが条件を壊しているか
この環境評価が不可欠です。

特に見るべきポイントは、
呼吸時に背中が膨らむか
立位で肋骨が下がる
体幹を固めずに片脚支持できる

これらが崩れていれば、
股関節に問題が出るのは“結果”でしかありません。

股関節の評価を知りたい方は下記を参考にしてください。

構造的なテスト、クレイグテスト

クレイグテストは前捻角を推定するための評価法。足首を把持し、膝90度で股関節を内外旋しながら触診する。大転子の主張が最も強くなる位置が、正常は約15〜20度。骨格的特徴の把握に有効。大転子の大きさも把握できます。

腸腰筋の硬さテスト、トーマス

陽性:股関節が曲がる
陰性:股関節が真っすぐ伸びる
と現場で使いやすい評価方法です。

改善の考え方:鍛える前に整える

最も起きやすい失敗は、

「評価ができるようになった分、
鍛える・直すポイントを増やしすぎること」
です。

しかし実際には、

股関節を使えるようにする
→ 鍛える前に
→ 使える環境を整える

この順番を守るだけで、
改善スピードは大きく変わります。

呼吸が入り、
胸郭が動き、
体幹が自然に安定した状態で行う股関節エクササイズは、

それ自体が再学習になります。

まとめ:股関節を「使える状態」に戻すために

股関節が使えない理由は、
股関節そのものにあるとは限りません。

多くの場合、
呼吸
胸郭
体幹

これらが作る前提条件の崩れによって、
股関節が「使えなくされている」だけです。

股関節を変えたいなら、
どこを鍛えるか
ではなく
どんな環境で使わせているか

ここを見る視点を持つこと。

それが、“指導の質が変わる段階”へ進むため
最も重要な一歩です。

 

Kolar P, Sulc J, Kyncl M, et al.(2012)
Postural Function of the Diaphragm in Persons With and Without Chronic Low Back Pain. JOSPT

Hodges PW, Cresswell AG, Daggfeldt K, Thorstensson A.(2001)
In vivo measurement of the effect of intra-abdominal pressure on the human spine. Journal of Biomechanics

Hodges PW, Richardson CA.(1997)
Contraction of the Abdominal Muscles Associated With Movement of the Lower Limb. Physical Therapy

PAGE TOP
ログイン